アプリユーザーの客単価は189%アップ!
ー その後はどのような取り組みに着手されたのですか?
林 スマートフォン向けのアプリですね。ウェブのリニューアルが完成した頃には、既にその構想がありました。ウェブで提供しているものをアプリ化しようという考えです。アプリでは、ウェブのようにただ待っているだけではなく、ユーザーごとに違う情報を出して、より個に基づいたレコメンドをしたいと考えていました。
ー アプリの構想が出たきっかけは?
林 当時は2013年でしたが、良品計画さんのアプリ「MUJI PASSPORT」がリリースされていました。その事例を見て、「店舗への送客」や「購買の促進」といったオムニチャネルの戦略に、アプリが非常に有効だと感じていたのです。メンバーの肌感覚でも「ウェブよりアプリでしょ」っていう空気はありましたね。
ー 実際に動き出したのはいつですか?
林 社内で正式にプロジェクトが始まったのは2014年の4月ですね。コンテンツとしては既にショップブログがありましたので、それをどう提供するのか、UIとUXを詰めていく作業を行いました。もちろん、バックエンドでデータベースが新たに必要になりますから、並行して構築しています。そして、「POCKET PARCO」として、半年後の2014年10月末に、福岡PARCO限定でローンチしました。
ー なぜ福岡PARCOからスタートしたのですか?
林 福岡PARCOでは2014年に新館がオープンしまして、「PARCOの様々なデジタル施策を実践検証する場」と位置付けていたんです。
ー 先行で検証していかがでしたか?
林 開始から2ヶ月くらいの段階で大きな効果が数字に表れました。「POCKET PARCO」では、来店促進のためにユーザーの様々な行動に対してコインを付与しています。例えば、「お気に入りのブログ記事をクリップ」したり、「来館時にチェックイン」を行ったりすると、ユーザーはコインを獲得できるわけです。貯まったコインは、ユーザーが買い物時に使える割引きクーポンと引き換えができます。
ー いわゆるポイントプログラムの一種ですよね。
林 そうですね。店頭での購買時にもコインを付与していまして、「POCKET PARCO」に登録したクレジットカードで決済すると、利用額と同等のコインを獲得できます。検証開始から2ヶ月の段階で、「アプリにPARCOのハウスカードを登録しているユーザー」は「アプリに登録していないハウスカードのユーザー」と比較すると1.6倍くらいの客単価があったんです。
ー それは大きな数字ですね。
林 ハウスカードの会員様にとっていたコミュニケーションよりも、「POCKET PARCO」を使ってもらうことで客単価をさらに上げられるという効果が得られたわけです。そこで、翌年度2015年の3月から全店舗にアプリの運用を拡大しました。
ー 全店舗に拡大後も、福岡PARCOと同じような効果はありましたか?
林 はい、2倍近い効果がありました。全店舗に導入してから2016年2月末までの1年間で、「アプリに登録されたハウスカード」での客単価は、「アプリに登録していないハウスカード」の客単価と比べると189%もありました。客単価はもちろん「購買回数」と「購買1回当りの購入額」の掛け合わせですが、特に顕著だったのは購買回数です。購買回数はアプリを利用していないお客様に比べると1.7倍、1回当りの単価も1.1倍という数字が出ています。
ー 全店舗へ拡大しても客単価が2倍近くアップするとは非常に大きな効果ですね。
林 アプリのユーザーはブログを閲覧していて、自分のお気に入りの記事をクリップすることが日常的になっているからだと思います。「ブログ記事に一定のクリップ数が集まると、ショップの店頭での購買が生まれる」という相関関係が確実にあります。
ー 具体的にご紹介いただけますか。
林 まず、ひとつの記事に10クリップ集まると、その後50日以内に店頭で1購買発生するという平均値が出ています。この「クリップ数と購買数の関係」はクリップ数が50くらいまでは比例的に上昇していきます。ところが、クリップ数が50を超えると、購買数が一気にグッと上がる傾向があるんです。
ー ブログで人気を集めた商品はより購買数が上がるわけですね。
林 ユーザーの観点で見ても、多くのクリップをしてもらうと売上につながっています。以前は、「1クリップにつき1コイン」をユーザーに付与していました。このレートを10倍にして、「1クリップにつき10コイン」獲得できるキャンペーンを1ヶ月半実施してみたんです。すると、ユーザーがクリップする数はあがりますし、それに応じて、売上もグッとあがるという結果が出ました。この施策では、きっちり成果を残せましたので、2016年の3月からは「1クリップにつき10コイン」付与することを標準に変更しました。このようにアプリ内でのお客様の行動を見ながら施策を実施して、すぐに効果を検証するというPDCAを回せるようになっていますね。
「来客前」「来客中」「来店後」3つのフェーズに合わせた施策
ー 店舗への送客の段階で行っている施策はありますか?
林 プッシュ通知を利用して、エリアターゲッティングによる来店促進の施策を行っています。これは浦和PARCOでの事例ですが、「過去3ヶ月以内に浦和PARCOから半径5km圏内でアプリを利用したユーザー」を対象に、「チェックインで獲得できるコインが週末限定で増加します」とプッシュ通知を送りました。このキャンペーン自体はもちろん全ユーザーが対象ですが、プッシュ通知はエリアで限定したわけです。
ー 効果はいかがでしたか?
林 プッシュ通知を受け取ったユーザーのチェックインが増えましたね。前の週末と比較すると15%アップしたんです。今までのエリアターゲティングは、住所から選別してDMを送るというものでした。DMの送付もまだ行っていますが、時間とコストを掛けること無く、データを見ながら「じゃあ、今週末やってみよう」とすぐに施策が実施できるのはアプリならではですね。
ー 来店中のお客様にも何か施策は実施されていますか?
林 「ある期間内に合計1万円以上購入すると500円のクーポンを配布する」というキャンペーンを行っていた際の事例です。「購買金額が1万円に満たないお客様」をセグメントして、「購買直後のタイミング」でそのキャンペーンの告知をプッシュ通知で配信しました。すると通知を受けとった後、平均して1時間10分以内に次の購買につながりました。回数で見ても、通知の後に平均3回の購買がありましたね。
ー こちらもチラシやDMではできない、アプリだからこそできる施策ですよね。
林 「来店後」の段階でも、ショップの評価をしてもらうことでコインを付与し、ロイヤリティを高める取り組みを行っています。
ー 具体的にはどのような内容ですか?
林 店舗での購入に対するコインの付与は、その翌朝に行うのですが、その通知に加えて「昨日のサービスはいかがでしたか?」と各ショップに対して5段階の評価をしてもらうんです。そして、そのユーザーが同じショップにリピートするかどうかを分析しています。
ー 評価とリピート率に相関関係はありますか?
林 評価が高いほどリピート率も高いという結果が顕著に出ています。「5」の評価をつけたお客様は5割を超えるリピート率がありますが、「1」や「2」の評価をつけたお客様のリピート率
は4割弱にまで落ち込みます。
ー 各ショップの反応はいかがですか?
林 「接客の改善につながる」と好評です。ユーザーからは5段階評価の他に、任意で自由記入のコメントをもらっています。ユーザーを特定できない形で、評価とともにこのコメントもテナントさんへ伝えているんですね。低評価のコメントからも改善ポイントがわかりますし、高評価のコメントはスタッフさんのモチベーションアップになっています。好意的なコメントを貰う機会は今まであまりなかったので、嬉しいコメントはとても励みになっているようです。
データの精度を高めるプライベートDMP
ー 先日「TREASURE DMP」の導入を発表されましたが、その経緯を教えて下さい。
林 取得しているデータを「より使えるデータにする」目的で「TREASURE DMP」を採用したんです。これまでもアプリを起点として、様々なデータを取得できるようになっていました。このデータをただ貯めている状態から、きちんと分析して施策に使えるアウトプットを作るのが「TREASURE DMP」だと簡単に実現できそうだと感じたんです。
ー まだ運用が始まったばかりですが、今後どのような点で活用していくのですか?
林 「TREASURE DMP」の導入以前の話ですが、2016年の3月に実装した「POCKET PARCO」のアップデートで、人工知能を入れています。情報のリコメンドを「購買」や「来店履歴」、「ブログのクリップ」などから、ユーザー
の好みを機械学習してパーソナライズしているのです。「TREASURE DMP」によって、この精度をより高めていけると思っています。もちろん、それ以外にも取得した行動データが整理されてくれば、打てる施策は広がるでしょうね。
ー 考えられる施策の幅は増えますよね。
林 現在は人力で施策を実施していますが、将来的にはある程度自動化できると想定しています。また、アプリやウェブの行動データ以外のデータも貯めているんです。
ー どのようなデータですか?
林 昨年、PARCO全館に「atPARCO」という「来館時にお客様が無料で利用できるWi-Fi」を導入しました。お客様の許諾を取った上で、このデータも統計情報として活用を始めています。このデータは膨大な量になっていきますが、アプリのデータと関連付けることで、より精度の高いデータとして活用できるようにしていきたいと考えています。
ー データソースがどんどん増えていっているのですね。
林 今はIoTの時代です。まだ、実現できているわけではありませんが、今後はビーコンやカメラのセンサーデータなどを活用して、お客様をより理解できるようになっていくと思います。既に取り組みを始めているものでは、店舗の屋上に設置した降雨センサーのデータがあります。気温や降水量など天候に関するデータを、IoT専用のデータ通信SIMを使って貯めているわけです。こうした「リアルな環境のデータ」も活用していくことで、「お客様が喜んでくれる今までにない体験」を提供していきたいですね。
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