4億件のデータを使うからできること
―そこが「第一弾」の課題だったのですね。
山崎 実際に「Dentsu.io」を使ってマーケティングの課題を解決しようと思っても、「広告の施策」や「ウェブページの最適化」は、担当者のマーケティングの知見なしには難しいものでした。データを分析しても、どのように「PDCAを回していくのか」という部分で、具体的な「出口」が弱かったのです。そこで、インティメート・マージャーさん、データアーティストさんの2社と新たに協業しまして、この10月に「Dentsu.ioの第2弾」をリリースしました。
―「第2弾」の特徴を教えてください。
山崎 「データのインプット」から、「どのような施策を打つのかというアウトプットまで」を「一貫して行えるよう」になったことで、「新規顧客を発見し、育成まで行える」という点が、今回のアップデートの売りですね。
―なぜそれが可能になったのですか?
山崎 まず、今までは「電通が保有しているデータ」と「クライアントが保有しているデータ」を利用していましたが、さらに、インティメート・マージャーさんが保有している4億件にも及ぶデータがここに加わりました。
簗島 私たちインティメート・マージャーは、パブリックDMP(データマネジメントプラットフォーム)を展開しています。これは、「お客様の自社サイトに集まったユーザーの情報」だけではなく、「私たちが保有するオーディエンスデータ」も利用できるものです。このオーディエンスデータの数が約4億件あるんです。
―すごい数ですね。
簗島 「日本の人口よりも多いじゃないか」と思われるかもしれませんが、PCやスマートフォンのウェブブラウザごとにIDを振っていて、そのブラウザの数が4億件あるんです。私たちは様々なメディアやアンケート会社と提携し、例えば「ハワイ旅行に関するウェブページを見ている人」とか「アンケートで20代男性と答えた人」がわかります。私たちが提供しているのは、そういった様々な情報が集まった巨大なデータベースみたいなイメージですね。
―インティメート・マージャーさんの参画で「インプット」の部分が強化されたのですね。
山崎 そうですね。そして、今回の「第2弾」では、既にお話した通り「アウトプット」にも力を入れています。それがデータアーティストさんとの協業で実現した部分です。
山本 私たちデータアーティストは、LPO(ランディングページオプティマイゼーション)を行うツールを提供しています。「LPO」とは「検索エンジンや広告の誘導枠からウェブサイトにアクセスしてきたユーザーが最初に訪れるページを最適化する」ということです。
―どのように最適化を行うのでしょうか?
山本 「Dentsu.io」を導入したお客様は、「電通さんが保有するデータ」「インティメート・マージャーさんのDMPのデータ」「お客様自身が保有するデータ」が貯められた基盤を利用できます。このデータなどから「ウェブサイトを訪問したユーザーをセグメント」し、「各ユーザーの属性や趣向にあったコンテンツを出し分ける」ことで最適化を行うのです。
―今回の新たな協業の構想は、いつくらいに生まれたものなのでしょうか?
山崎 今の形が固まったのは半年くらい前でしょうか。実は、「インティメート・マージャーさんのサービスを使いたい」とか「データアーティストさんのツールを導入したい」といった要望は元々クライアントから寄せられていました。そこで、「3社のデータが統合できれば、データにさらに付加価値ができて、競争優位性が生まれるよね」と、この枠組ができあがりました。
真冬でも「スポドリ」の売り上げを伸ばしたい!
―アップデートされた新たな「Dentsu.io」の機能を利用して、企業はどのように顧客とコミュニケーションをとっていけばよいのでしょうか。マーケティング全体のプランニングに携わっている電通の五島さんに伺います。
五島 今回の「Dentsu.io」では、「メディア・広告データ」「自社ウェブサイト来訪者属性データ」などの様々なデータを新たに取り込めるようになりました。これらのビッグデータを利用することで、3つの段階から顧客とのコミュニケーションを図ることができます。
―3つの段階?
五島 まずは、「新規顧客の発見」です。電通の知見を活かして「クライアントの商品やサービス」と「各セグメントの相性」を評価していきます。そうすることで、「潜在顧客層を明らかにする」とともに「存在顧客の市場でのボリューム」も把握することができます。
―どのような属性や趣向の集団が潜在顧客なのかを明らかにしていくのですね。
五島 その集団のことを「消費者クラスター」と呼んでいるのですが、その「消費者クラスター情報を、インティメート・マージャーさんが保有しているデータに付与し、広告を配信する」のが2つ目のフェーズです。ターゲットニーズに合致した広告を配信することで送客を支援するんです。これが「顧客化」です。
―自社のウェブサイトなどに顧客を誘導する段階?
五島 そうですね。そして、3つ目は「顧客の育成」です。広告から流入してきたユーザーに、データアーティストさんのツールを利用して、ユーザーの属性や趣向に合わせたコンテンツを表示します。コンテンツを最適化することで、コンバージョンを改善します。
―今回の「Dentsu.io」を使用するとどのようなことが可能になるのか、具体的なイメージを教えてください。
山本 例えば、お客様が「スポーツドリンクを冬に売りたい」というマーケティングの課題を持っていたとします。「寒いけど飲みましょう」と顧客にコミュニケーションをとっても当然売れるはずがありません。でも、「乾いているのはのどではなく、身体なんです」みたいなことを言ってあげると売れるんです。
簗島 データは使わなくては意味がありません。今の例で言えば、「『身体が乾いている』というメッセージに共感するのは20代女性」とわかっても、今までは「20代女性をターゲットにしよう」と決められるだけでした。でも、それだけでは売上に直結しません。「Dentsu.io」を使うことで、「20代女性に向けた具体的なアクション」が起こせる、「定義したターゲットを具体的に狙っていける」というのが、私たちの提供できる一番の価値だと思っています。
山崎 実際の「消費者一人ひとりの行動や、属性、趣味趣向」に対してターゲッティングが行えるんです。さらに、インティメート・マージャーさんが持っている4億件というデータに、電通が持っている「消費者はどう動くのか」という「マスの知見」を掛け合わせることでターゲッティングの精度が高まります。今までも、「スポーツドリンクを購買したり、スポーツドリンクの情報を見た10万人」はわかりました。
そこに属性や趣向、さらにマスの傾向を掛け合わせることで、もちろん精度は少し下がりますが100万人に訴えることができるんです。
山本 「クライアントが自分で持っているデータ」「インティメート・マージャーさんが持っているデータ」、さらに「電通さんが持っている世の中のマスのデータ」を掛け合わせると、「顧客に何を伝えるべきか」は自ずと決まってくると思うんです。スポーツドリンクの話で言えば、「身体がカラカラ」ということかもしれませんし、「ドリンクが身体を潤す」ということかもしれません。ここまでは絞れます。
さらにそこから、「どの層にはどのメッセージが適しているのか」まで細かく最適化できるんです。このようにPDCAがどんどん回っていき、「この施策を打ったら、これだけ売れました」という詳細なデータまで提供できるイメージです。
―今回の協業を進める上で、難しかった点はありますか?
山崎 開発の面で言えばそれほど困難はありませんでしたね。
―なぜスムーズに進んだのでしょうか?
山崎 「データを統合する」という行為は、通常コストが非常にかかります。しかし、今回は電通、インティメート・マージャーさん、データアーティストさんの3社が、たまたまトレジャーデータさんを既に導入していたので、トレジャーデータさんの中だけでデータの統合ができたんです。どのような形のデータでもいいし、データのやりとりの安全性が確保されている。しかも、データの出し入れのコストが格段に下がるし、スピードも早い。極端な話、技術上は5分くらいで3社のデータが統合できてしまうんです。トレジャーデータさんがいなければ、この協業も「何か一緒にやりましょう」というよくある会話だけで終わったかもしれません(笑)。
小林 私たちのサービスはデータのやりとりをしやすくするために、インポートに特に力を入れていますので、開発工数を減らすという部分には貢献できていると思います。さらにそのデータのやりとりは同じプラットフォーム上で行われていて、外部からのアタックを受ける可能性がないので、安全なんです。今後も引き続き外部との接続をしやすくするといったことに注力していきたいですね。
山崎 もし、データのやりとりをトレジャーデータさんなしで行おうと思ったら、インフラを整えて実装するのに3ヶ月、さらに契約などもあれば1ヶ月や2ヶ月かかりますから、半年近くは余計に時間がかかっていると思います。
簗島 コストも安いですよね。例えば、異なるデータセンター間でやりとりをしようと思った
ら、回線の契約を行わければいけませんから、格段に高いコストがかかると思います。
山崎 ネットワークの回線まで含めて検討しなければいけませんから、少なくとも一桁は変わってくると思っていますね。
テクノロジーの「民主化」
―新しい「Dentsu.io」はどのような企業への導入を目指しているのでしょうか?
五島 飲料、食品、自動車、化粧品・トイレタリー、リテール、エンターテイメントなどの企業に提供したいと考えています。要するに「全ての業種」ですね(笑)。
―なぜ全ての業種なのでしょうか?
五島 新しい「Dentsu.io」では、先ほど述べたように「顧客の育成」ができるからなんです。化粧品やトイレタリーのような「消費財」がメインのクライアントは、今までもマーケティングの領域に積極的に投資していますから、当然導入が想定できます。しかし、「インティメート・マージャーさんのデータ」を使って、「データアーティストさんのLPOでコンテンツを最適化」して「顧客を育成」することで、購入までの 検討期間が長い商材にも有効だと思うんです。 ですから、自動車や不動産といった高価格の耐久消費財を扱っているクライアントにも、是非「Dentsu.io」を導入して欲しいですね。
―既に問い合わせは多いのでしょうか?
山崎 どの業種でも課題はありますので、本当に様々なご相談をいただいています。
―どのような内容の相談ですか?
山崎 例えば、飲食店のケースですと、オンラインで打った施策の成果は、当然のことながら店舗でしかわからないわけです。オンラインとオフラインのデータを掛けあわせないと、実際の効果を含めた検証ができませんでした。今まで、別々のツールからそれぞれ情報を集めていたり、いちいち手作業で集計していたものを「ひとつの基盤に集めて、情報の収集・加工・集計を簡単にできる」ようにしたい。そうして、「経営状態やサービスの状態をすぐにわかるようにしたい」という相談は本当に多くありますね。
―集計にかかる手間を減らしたいというニーズはやはりあるのですね。
山崎 「週一回の経営会議に持っていく情報を作るために、2日間ずっとExcelを触っている」なんて話はざらにあると思うんです。でもそれでは「数値から考える時間」がとれません。
五島 「Dentsu.io」は、技術でできることを効率化し、「人間が頭で考えることにリソースを割ける環境」を提供するものだと思っています。
―実際に導入している企業の反応は?
五島 「データを集計することに時間がかかっていたのが、シンプルにとても早いスピードで見られるようになった」とか「より考える時間が確保できて、ディスカッションが深まった」といった言葉はいただいています。
―「Dentsu.io」を導入する企業の担当者に技術力は必要ですか?
山崎 技術力は特に必要ないですね。
五島 こういったデジタルなサービスの担当者は、デジタル担当や広告担当、メディア担当の方になりがちです。しかし、「Dentsu.io」は意外とそうではなくて、CEOを始めとした経営層や、CMO(チーフマーケティングオフィサー)的な立場にいる方に反応がいいですね。もちろん、デジタル担当、広告担当の方とのお付き合いも多いのですが、今まで見えなかったものが「何が起きているのか一瞬でわかる」ようになるものですから、意思決定に関わる人に刺さっているように感じます。
山崎 今では事例も増え、技術も進化したので、データで解決できることも多くなりました。しかし、「経営戦略」と「データ活用」の間にはまだまだ距離あることも多いです。それでも、「経営戦略に関わる人」に「データ活用」を広げていきたい。そうでなければ、「データを活用する文化」が根付かないんです。
五島 大きな流れで言えば、データやテクノロジーを誰でも使えるように「民主化」していくフェーズに差し掛かっていると考えています。今までは「技術についてリテラシーが高い人同士で商談していればよかった」というような規模だったのですが、今はとても広範囲に広がっています。「誰でもわかるような形で、かつ本当に価値がある」と多くの人に伝えていくフェーズに移行したと感じているんです。
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