「自動運転」「コネクテッドカー」といった単語のトレンド化に代表されるように、自動車業界は現在大きなテクノロジーの波を迎えている。2013年10月に設立された株式会社スマートドライブは、1万台以上の自動車から収集するデータを分析して提供しているスタートアップだ。同社では収集・分析したデータをプラットフォームとして提供することで、単に事業会社に導入されるだけではなく、多くのノウハウが蓄積された企業とパートナーとして連携することを狙っている。実際にパートナーシップを結んだのがPwCコンサルティング合同会社だ。本稿では、スマートドライブの代表である北川烈氏と、PwCコンサルティングの水上晃氏に話を伺った。 [sponsored]
【北川 烈】
株式会社スマートドライブ代表取締役社長。慶應義塾大学在学中より国内ベンチャー企業でインターンを経験し、1年間の米国留学。帰国後に東京大学大学院へ進学をし、在学中の2013年、スマートドライブを創業。
【水上 晃】
PwCコンサルティング合同会社 デジタルサービス部門ディレクター。東京都出身。大手鉄道会社、複数のコンサルティングファームなどでの勤務を経て、2015年にPwCコンサルティングへ入社。
1万台から取得するデータを「欲しいだけ」「好きなだけ」
ー まず、スマートドライブの事業の概要を北川さんに伺います。
北川 私たちは自動車のシガーソケットや、車検の際に整備士の方が車の状態を調べるためのOBDポートと接続するデバイスを開発しています。そのデバイスは例えば、「エンジンの故障情報」や「リアルタイムの燃費」、車種によっては「ワイパーの動き」や「シートベルト着用の有無」など様々な車内のデータを取得可能です。
ー デバイスの取り付けにはどのくらいの時間がかかるのですか?
北川 これまでの車載器は取付工事を行うのが大変だという課題がありました。私たちのデバイスは後付けで簡単に取り付けられ、直後からデータを収集出来ることが大きな特徴です。特別な知識がない方でも1分あれば簡単にセットアップできるんです。例えば、物流を半日間ストップさせて、車両に車載器を取り付ける工事を行うのはとてもコストがかかりますよね。ですから、取り付けが簡単に行えて業務に支障をきたさない点はお客様からも支持されています。
ー 取得した走行データはどのように利用するのでしょうか?
北川 車載デバイスはBluetoothでスマートフォンと連携ができまして、取得したデータをスマートフォンからクラウド上の基盤に送信しています。私たちは収集した大量のデータをクレンジング・分析し、様々な企業がこの走行データを活用できるようにプラットフォームとして提供しています。
ー それらは全て自社で開発されているのでしょうか?
北川 そうですね。車載デバイスの製造だけは委託しているのですが、ハードウェアの設計から、そこへ組み込むファームウェアの開発、クラウド基盤の構築、データの分析、プラットフォーム開発までを全て提供しているのが私たちの大きな特徴だと思います。そのため仮に何か問題が起こったとしても、デバイスとアプリのどちらに原因があるかがすぐ把握できるんです。
ー それはワンストップで提供しているからこその強みですね。
北川 「デバイスを売ったら終わり」ではなく、その先のサービスまで提供するモデルなんです。蓄積したデータを活用して、いかにお客様に貢献できるかがポイントです。ですから、デバイスとアプリのどちらにも細かいチューニングを実施可能です。例えば、取得したいデータの種類を変更したり、車種を変更したりするといった調整も簡単に行えるのが私たちの強みですね。
ー お客様によってデータのニーズに違いはあるのでしょうか?
北川 そうですね。例えば保険会社のお客様は、「走行距離や安全運転度合いがわかるデータ」を必要としますが、「今どこにいるのかという位置情報」までは不要です。しかし、業種によっては「今どこにいるのか」など別のデータが重要になる場合もありますよね。私たちのプラットフォームでは、必要な「データの種類」や「データの粒度」をカスタムして従量課金モデルで提供しています。ですから、非常に汎用的にご利用いただけます。
ー どのくらいの台数の車両からデータを取得しているのですか?
北川 1万台以上の車両からデータを収集しています。多いものですと1台当たり50種類以上のデータを取っていますので、蓄積されたデータはかなりの量になってきていますね。「エンジン回転数」を分析できている車種では、「スピードは出てないけど、ふかしすぎている」のような情報も簡単に分析できるんです。
営業車両に200台のムダ!?
ー 導入した企業にはどのようなメリットがあるのかご紹介ください。
北川 どの業種においても安全運転を促進することで事故率は軽減します。燃費効率も向上しますし、位置情報や走行ルートを可視化することで管理効率も大幅にアップしますね。
ー 具体的な事例をご紹介いただけますか。
北川 まず、コンシューマー向けの事業として、アクサダイレクトさんとの事例があります。アクサダイレクトさんでは私たちのデータを使うことで「走行データと連動した保険」を開発しているのです。安全運転をしている加入者は、保険料が安くなるなどのインセンティブがある商品です。
ー「 安全運転」というのはどのように定量化しているのでしょうか?
北川 様々な要素を複合して算出しているのですが、例えば「急ブレーキが少ない」「急ハンドルが少ない」「スピードの出し方がゆるやかである」などをデータから分析して判定しています。
ー その他にはどのような業種で使われているのでしょうか?
北川 法人向けでは大手コンビニチェーンの配送車両に導入した実績があります。ドライバーごとの安全運転をスコアリングしたり、車両の稼働率を算出したりといった細かい管理をリーズナブルに行えると評価していただいています。
ー 導入のコストはどのくらいなのでしょうか?
北川 一部の大型トラックには、「デジタコ」と呼ばれる運行記録計の設置が義務付けられています。そのデジタコと比較すると初期費用は10分の1程度ですね。1台当たり数千円の初期費用で設置出来ますし、1480円からの月額利用料で様々な機能をご利用いただけます。低コストで導入・運用ができるのでかなりの台数をお持ちの事業者さんにも活用いただいています。
ー どのくらいの規模の企業なのでしょうか?
北川 1000台くらいの営業車両をお持ちの企業が導入している事例もあります。これくらいの規模の台数でデータを取得して分析すると、実は200台くらいの無駄があるとわかるんです。
ー え? 200台もですか?
北川 車で移動しなくてもいいケースが実は結構あるんです。また、事故率の軽減を指導したりもしています。例えば、200台くらいの車両を保有している私たちのお客様で、月に15件も事故が発生している企業もありました。安全運転のスコアリングなどで事故件数の減少につなげています。
ー 単に管理を行うだけではなく、コンサルティング的な活用の方法もあるわけですね。
北川 実際にコンサルティング会社とパートナーとして提携して、特定の業界に特化したソリューションを作ったりもしているんです。
ー 例えばどのようなものでしょうか?
北川 大手の物流会社の配送車両に特化したものや、医療系の営業車両に特化したソリューションを開発した事例がありますね。車両の管理を適正化する手法を「フリートマネジメント」と呼ぶのですが、それこそが私たちのコアな技術です。わかりやすいところでは運転が可視化されて管理が楽になったり、事故が減って保険料が下がったり、燃費が向上したりします。それだけではなく、運転日報が簡単に作成できるようになったり、勤怠管理ができたりと日々の業務の改善にご活用いただけるのです。
「営業日報」をデジタルで置き換える
ー パートナーとして提携されているPwCコンサルティングの水上さんにもお話を伺います。
水上 私は「最先端の技術をベースに企業活動を変える」というミッションを持ったチームに所属しています。AI、データアナリティクス、IoT、ロボティクスなどを専門領域としているチームですね。スマートドライブさんとは1年半ほど議論を重ねまして、現在取り組みが始まったところです。
ー この度の連携のきっかけはどこにあったのでしょうか?
北川 私たちスマートドライブは以前から特定の業界に精通したパートナーを探していました。それは、私たちだけでは業界ごとの細かなインサイトがわからないからです。PwCさんとは初期の段階から議論を重ねてきましたが、ようやく具体的なソリューションに落とし込める段階にたどり着きました。
水上 私たちのチームでは「情報がないところ」にフォーカスしていたのですが、多くの企業で「営業がどこでなにをしているのかわからない」「営業が効果的な活動をしているのかわからない」といった課題があったんです。営業の方の行動を知る手段はこれまで「営業日報」しかなかったわけですが、その「営業日報を作成すること」は本人にとっては間接業務ですよね。でも、会社としては情報が欲しいわけです。ですから、テクノロジーで自動的に可視化できないかと考えていたんです。
ー どのような業界の課題だったのですか?
水上 例えば、「フィールドエンジニアリング」と呼ばれるサービスを提供している企業です。高いスキルを持ったテクノロジー企業でも、物理的な機材がお客様の現場にあればメンテナンスや修理が必要ですよね。それが「フィールドエンジニリング」なのですが、郊外のお客様であれば自動車で移動せざるを得ません。他にも自動販売機の補充サービスを行っている企業でも同じ課題を抱えていました。実際に「営業車両を管理できないか?」というお問い合わせは5年ほど前からありました。
ー 以前はなぜ実現しなかったのでしょうか?
水上 私たちも当時からIoTなどに取り組んでいたのですが、コストがどうしても高くなってしまうんです。しかも、お客様は「車両からデータをとること」を実現したいわけではなく、「データをとって事業を改善したい」というその先のサービスの部分を求めていたんですね。これまでの車載器を提供する企業には、「デバイスからサービスまで」という概念はなかったと思います。
ー スマートドライブ以外に検討されたサービスはありましたか?
水上 もちろん、既存のデジタコを自動化するソリューションがあることなどは知っています。でも、クラウドベースで情報をシンクできて、ワンストップでデバイスから開発しているからこその「気の利いた分析」を提供できるのはスマートドライブだけだと思いますね。
北川 従来の車両管理システムは、「車両を管理すること」を目的に作られていました。車両の数が数万台、数十万台になったケースは全く考えられていないのです。私たちのエンジニアは数千万人のユーザーを抱えるゲームを開発していたり、そのデータを分析してマーケティングに活用したり、外部のベンダーがそのデータを活用できるように開発していた経験があります。数十万台の規模のデータを「車種ごとに分析したい」「エリアごとにデータをみたい」といったニーズがあることを始めから想定して開発しているんです。
営業の訪問件数は3倍に!
ー PwCでは、今後どのようにスマートドライブのデータを活用していくのでしょうか?
水上 直近の取り組みとしては、例えば営業さんが移動に8時間掛かっているのに、1軒しか訪問できていない企業があったんですね。そういったケースはデータを元にルートを見直してあげるだけで3軒は回れるようになると思います。
ー 3倍というのは大きいですね。
水上 私たちPwCの取り組みは、まずはこの仕組みによってすぐに価値が生まれる企業に導入することだと思います。でも、将来的には一般の消費者が利用する車両にも広まって欲しいですね。すると、交通渋滞の緩和などが実現しますし、その結果、観光などへの適切な送客ができるようになるはずです。もちろん、私たち単独ではそこまでカバーはできませんが、マスの知見がある方たちと連携しながら、車に乗る体験を豊かにしたいですね。
ー 北川さん、スマートドライブの今後の展望をお聞かせください。
北川 まず今年度は、10万台の車両からデータを取得できるようになることを目標にしています。
ー どのような企業とパートナー連携を進めていくのでしょうか?
北川 PwCさんのように、何かしらの業界を深く理解している企業ですね。私たちが提供しているデータは、持っているだけでは「宝の持ち腐れ」になってしまうケースが多いんですね。業界独自のナレッジを持っていて、データからその業界の課題解決を導けるノウハウがある企業とはどんどん一緒に取り組みを進めていきたいと考えています。そのために、外部のツールと連携していかにエコシステムを構築できるかに注力していきます。
ー 最後に北川さんがどのような世界を目指しているのかお聞かせください。
北川 車に関わらず、生活の全てがユーザーを中心につながる世界を実現したいですね。例えば、車で帰宅すると自動でお風呂が湧いていたり、ガソリンが減っていたら家電が給油のアラートを出してくれたりするんです。移動が生活にシームレスに溶け込む世界に貢献できればうれしいですね。
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