2017年4月、旧来の富士重工業から社名を一新した株式会社SUBARU。「スバル」ブランドをより磨く取り組みの一環だ。同社では「スバル」ブランドのロイヤルティを高める戦略を全社として掲げており、もちろんデジタルマーケティングに携わる部門も例外ではない。
SUBARUの国内営業本部でデジタル施策を担当する安室敦史氏は、様々な種類の大量のデータを一元管理することができるDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を導入した。採用したのは、トレジャーデータ株式会社が提供するプライベートDMPソリューション「TREASURE DMP」。このDMPの導入にはどのような狙いがあったのだろうか。安室氏に話を伺った。 [sponsored]
【安室 敦史】
株式会社SUBARU国内営業本部マーケティング推進部宣伝課主事。大学卒業後、株式会社ぱどでの勤務を経て2008年に入社。東京スバル株式会社で3年半セールスを経験し、2011年より現職。
デジタル未経験の「ウェブ担」が業界トップを獲得
ー 初めに安室さんの足跡を教えてください。
安室 私は2003年に「ぱど」というフリーペーパーを発行している会社に新卒として入社しました。そこで広告の企画や飛び込み営業を5年半ほど経験した後、2008年に富士重工業、現在のSUBARUへ入社しました。
ー 入社後は何を担当されたのですか?
安室 まず東京スバルというSUBARUの正規ディーラーへ出向しまして、府中の店舗で3年半セールスを行いましたね。その後、出向を終えて今所属しているマーケティング本部の宣伝課に配属されました。それが2011年の11月のことです。
ー 宣伝課ではどのような取り組みを行なってきましたか?
安室 一番初めは「東京モーターショー」を担当しました。80万人を超える来場者のみなさまに「スバル」ブランドの魅力を知ってもらい、ファンを増やすための活動です。他にもフジテレビさんが夏休みにお台場で開催するイベントでの試乗会なども担当しましたね。イベント以外ではドイツで開催される「ニュルブルクリンク24時間レース」に参戦しました。こうしたモータースポーツのマーケティングも行なっています。
ー 当初はオフラインでの取り組みがメインだったのですね。
安室 そうなんですよ。自分でも現在のようにデジタルを担当するとは思っていませんでした。
ー 何がきっかけだったのですか?
安室 2014年の1月に開催された「東京オートサロン」というイベントの会場で、当時の上司に「明日からウェブ担当者になってくれ」と突然告げられたんです(笑)。自社コーポレートサイトなどの「オウンドメディア」、有料で出稿する「ペイドメディア」、SNS運営などの「アーンドメディア」を合わせて、「トリプルメディア」と呼ばれていますよね。私は全く知識がない状態だったのですが、その全てを担当することになりました。
ー デジタルマーケティングに携わるチームはどのような体制だったのですか?
安室 担当していた人が産休をとった影響で、私だけしかいませんでした。SNSアカウントの「中の人」など、どんなことでも自分で行なっていましたね。去年ようやく1人メンバーが増えたんです。でも、彼は他の仕事と兼務しながらなので、今でも実質1.5人くらいの体制です。
ー まずどのような取り組みをされましたか?
安室 「オウンドメディア」の運用にはかなり注力してきました。トライベック・ブランド戦略研究所が発表している「主要企業ウェブユーザビリティランキング」という15業種、150社のコーポレートサイトを評価した調査があるんですね。私が担当する前の2013年のランキングでは、全150社中82位でした。自動車業界では一番悪い数字です。しかし、翌2014年は12位、自動車業界トップのランキングを獲得しました。業界トップはここから3年連続続いています。
3つのミッションのためにデジタルができること
ー 貴社ではスマートフォンアプリもリリースされていますね。アプリも安室さんが担当されているのでしょうか?
安室 アプリに関しては全てを担当しているわけではありません。例えば現在運営している「マイスバル」というアプリでは、メインの担当は別の部署になります。私が関わっているのはUIであったり、DMPの連携であったりといった部分ですね。
ー 「マイスバル」がどのようなアプリなのかご紹介ください。
安室 「マイスバル」は私たちのオーナー様向けのスマートフォンアプリです。従来、ディーラーのセールス担当はお客様のご自宅に伺いしたり、電話を掛けたりする営業活動を主に行なっていました。それ以外にも「デジタルツールを活用してお客様とつながりたい」という意図で作ったのが「マイスバル」なんです。
ー 具体的にはどのように「つながる」のでしょうか?
安室 お客様が何か困ったときにセールスへ連絡がとれたり、車の整備の予約をとれたりといったことがアプリ上で行えます。また、万が一事故が発生してしまったときには、その状況をアプリからコールセンターに送信することができます。もちろん、私たちから様々な情報もお届けしています。「マイスバル」から様々なデータを取得していまして、そのデータをDMPに保存し、マーケティングへ活用しようとしているんです。
ー 安室さんがDMPを導入するまでの経緯を教えていただけますか?
安室 私がウェブ担当に任命された2014年は「ビッグデータ」や「DMP」といった言葉が大きな話題になり始めた頃でした。デジタルの知識は全くなかった私ですが、それでもその盛り上がりは感じましたね。そして、業界にたくさんある「アルファベットの3文字熟語」をひとつずつ勉強しながら、まずは社内のデータがどのような状況になっているかを確認しました。
ー どのような状態だったのでしょうか?
安室 多くの企業と同じように私たちもデータが非常にサイロ化していまして、統合して活用することができない状態だったんです。例えば、「コーポレートサイトのログ」は私の所属する宣伝課に送られていました。「ディーラーでの購買」や「展示会への来場者数」のデータは販売促進部が管理していましたが、ディーラーの業務支援も行う「PARTNER-21」という「基幹システムのデータ」は営業支援部が管理していました。他にもECサイトの購買データを別の部署が持っているなど様々なデータが本当に散らばっていたんです。
ー そこでDMPの必要性を感じたわけですね。
安室 そうなんです。それが2014年のことなのですが、ちょうど会社から中期経営計画が発表されました。それは2020年に「大きくはないが強い特徴を持ち質の高い企業」であろうというものです。そして、そのあるべき姿に向かうために「スバル」のブランドを磨く取り組みに注力するという戦略が全社として立てられました。宣伝課が属する国内営業部では、その戦略を推進するために3つのミッションが掲げられたんです。
ー 3つのミッションとは?
安室 「ブランドを磨く」「ロイヤルティを高める」「恒常的に12万台を販売し続ける」の3つです。この3つのミッションを受けて、私は「デジタルでできることってなんだろうか?」と考えました。そこで世の中のトレンドから見てもビッグデータを活用することが、会社の方針にも合致していると思ったわけです。ですから、私は会社から「ビッグデータを推進してくれ」と言われたわけではないのですが、組織としての課題を解決する手段としてDMPを導入しようと決意しました。
DMPを導入するための3つのポイント
ー 社内ではどのようにDMPの導入を推進したのですか?
安室 社内でこのようなデジタルの取り組みを推進するポイントは3つあると私は捉えています。まずは、「組織の課題解決の手段になっていること」です。どの会社にも組織として何かしらの課題はあるはずです。その課題を解決する手段になっていないと、やはり上司は承認してくれませんよね。
ー その他のポイントについて教えてください。
安室 次のポイントは「成果を出すこと」です。何も成果を残していない人が「DMPやりましょう!」と言っても、おそらく誰も話を聞いてくれないと思うんです。私の場合は、先ほど申し上げた「主要企業ウェブユーザビリティランキング」で、2014年、2015年と2年連続で業界トップを達成したことで、周りが私の言うことに耳を傾けてくれるようになりました。さらに、その2015年にはロイヤルティを高めるためにアプリ「マイスバル」を始めることが決まり、「ここがチャンスかな」と一気に進めていきました。
ー 具体的にDMPの導入をプロジェクトとしてスタートされたわけですね。
安室 そうですね。そして、最後のポイントは「周りを巻き込んでいくこと」です。DMPを導入するメリットを理解しているのが私だけならば、プロジェクトが推進することはありません。これは方法論にはなりますが、まず私は同僚から攻めていきました。勉強会を開催したり、DMPを実践している会社のお話を聞きに行ったりしたのです。
ー どのような企業にお話を伺ったのですか?
安室 例えば、資生堂さんです。同僚を連れて「ワタシプラス」の事例を聞きに行きました。やっぱり、既に実践している企業の方からお話を聞いたほうが早いんです。いくら私が資料をまとめて社内に展開しても、ほとんど効果がないと実感しました(笑)。「巻き込みたい人」を、知見を持っている外部に連れていくことはとても有効です。
ー 同僚以外はどのように巻き込んでいったのでしょうか?
安室 同僚の次は上司ですね。40代や50代の上司の中には、とても高いレベルでデジタルを理解している方もいます。しかし、「ビッグデータ」とか「DMP」と言っても全く理解してもらえないケースもまだまだ多いと思います。私が使ったのは、泊まりがけのオフサイト的なセミナーに上司を連れていくという手法です。マインドセットが大きく変わるのでかなり有効だったと思います。
ー 役員はどのように巻き込みましたか?
安室 最後の役員は「誰にでもわかりやすい易しい言葉でシンプルに説明する」という点を徹底しました。理解してもらいやすいように例え話も交えましたし、専門用語は一切使わずにプレゼンしました。さすがに「DMP」という言葉を使うことは避けられませんでしたが、それも「『DMP』は『データ・マネジメント・プラットフォーム』の略で」とイチから解説して、DMPが組織課題の解決手段になることを説明するわけです。
複数の広告代理店とうまく連携したい
ー 実際にはプライベートDMPソリューション「TREASURE DMP」を採用したと先日リリースがありました。他のベンダーのソリューションも検討されたのでしょうか?
安室 そうですね。トレジャーデータさんに出会う前に様々なベンダーさんにプレゼンをしてもらっていたんです。しかし、どれも「帯に短したすきに長し」という感じでなかなか決めきれないでいました。「ここはいいんだけど、あっちはダメだよな」っていうものがすごく多かったんですね。
ー トレジャーデータはどのように知ったのでしょうか?
安室 2016年の4月に資生堂さんのDMPの事例を聞きに行ったのですが、それがトレジャーデータさんを知ったきっかけですね。他社のサービスでできなかったことも「TREASURE DMP」では全て解決できたので、存在を知ってから採用を決断するまではあっという間でした。
ー 他社では実現できず、「TREASURE DMP」が解決できたのはどのような点ですか?
安室 一番の決め手となったのは、他のツールとの連携のしやすさです。例えば、まず社内の営業支援システムや顧客管理システム、ウェブ広告を配信するためのDSPとの連携できる必要がありました。さらに私たちの特殊な課題だと思いますが、広告を担当する代理店が車種ごとに異なるんです。
ー 広告代理店が異なっても使えるようにしたかったわけですね。
安室 そうなんです。とはいえ、もちろん競合同士になってしまいますから、例えば「他の代理店に自分たちのクエリーを見られたくない」といった声がありました。それをベンダーさんに相談すると「できないことはないんですが、社内で調整して3ヶ月くらいはかかります」なんて回答があるケースが多かったんです。「TREASURE DMP」ではそういった問題が一切ありませんでした。「連携したいところとすぐに連携できる」ようなエンジニアリングのレベルの高さを、実際に運用開始する前の段階で既に感じていました。
ー 導入を決断してから運用を開始するまでのスピード感はいかがでしたか?
安室 とても速かったですね。運用開始は2016年の7月なのですが「え? こんな短時間でホントにできたの?」と感じたほどです。技術的なトラブルなども全くありませんでした。こういったスピード感も考慮すると、自社でシステムを構築するのに比べて数分の一のコストで収まっていると思います。コストパフォーマンスは非常に高いですね。
3種類のデータを統合し、3つの施策に活用
ー 「TREASURE DMP」の運用開始後、どのようなデータを取得されていますか?
安室 「TREASURE DMP」には欲しいデータのほとんどを入れていますね。まず、いわゆるプライベートDMPとして使っていて、様々なチャネルから取得する顧客のデータを蓄積しています。ディーラーで扱う「PARTNER-21」というシステムに貯まっている顧客のデータを、個人情報を除いた形で入れていたり、ウェブサイトのアクセスログ、スマホアプリ「マイスバル」からもデータを取ったりしています。他には各店舗で提供している無料Wi-Fiサービスを利用していただいた方のログも取得しています。
ー 顧客のデータ以外にはどのようなデータを蓄積されているのでしょうか?
安室 セカンドパーティとして自動車専門のメディアと提携していまして、そこからデータを入れています。またサードパーティのデータも購入していますね。それら大きく3つのデータソースから取得するデータを「TREASURE DMP」に蓄積して、統合しているのです。
ー 統合したデータはどのような施策に活用されているのでしょうか?
安室 主に3つの点でデータを活用しています。まずは、カスタマージャーニーの理解ですね。これまでは「経験と勘」でなんとなく仮説を立てていました。これがデータドリブンに可視化できるようになったのは非常に大きな成果だと感じています。次に、そのカスタマージャーニーを元にした広告配信の最適化にデータを活用しています。
ー データに基づいて広告配信を行うことで数字は改善しましたか?
安室 クリック率が高まるといった成果は実際に出ています。でも、広告配信の最適化はそれを目的としている施策ではないんです。例えば、車の購入を検討し始めてから購買に至るまでは、一般的に45日の時間がかかると言われています。「検討を開始したばかりの人」と「ほぼ何を購買するのか決まっている人」では、同じ「購買を検討している人」でも全く性質が異なりますよね。同じ広告を出しても効果的ではないと思うんです。
ー 確かに「ほぼ何を購買するか決まっている人」に広告を出しても「邪魔だな」と思われることがありそうですね。
安室 そうなんです。私たちが取り組んでいる広告配信の最適化というのは、「スバル」ブランドのファンを増やすための取り組みです。基本的に広告は消費者に好かれるものではありません。特にネット広告、スマートフォンの広告は、ユーザー体験を大きく損なうものも多いですよね。そういった体験をなくして、「欲しい」と思っていいただける情報を、適切なタイミングでお届けしたいと考えています。それを実現するために広告配信のログも取得してデータをより精緻にしたいですね。
ー 他にはどのような点でデータを活用されていますか?
安室 3つ目は、オウンドメディアを「One to One」でお客様ごとにコンテンツを出し分けていく施策です。これは現在仕込んでいる状況でして、間もなく始まる取り組みです。
デジタルのよさは「つまみ食い」
ー 全く未経験の立場からDMPをはじめとするデジタル施策に携わったわけですが、デジタルマーケティングについて現在どのように感じていますか?
安室 私たちが行っているデジタル施策はとても新しいものだと思っています。私たちにもあまり知見はありませんし、まだまだナレッジを蓄積している段階です。今はようやくデータが一箇所に貯められるようになったばかりですが、デジタルがとてもいいと思う点がひとつあるんです。
ー どういった点でしょうか?
安室 「面白いと思ったことを、とりあえず実践できること」ですね。データで成果が可視化できますので、成果が出なければ辞めればいいですし、効果的なら続ければいいんです。「つまみ食い」ができるのはデジタルならではのよさですね。
ー 今後データを活用して実践する取り組みの予定があれば教えてください。
安室 お客様と私たちの一番の接点は、やはりディーラーにあるんです。顧客ロイヤルティを高めるのが私たちのミッションだと先ほどお話しましたが、そのために将来的にはディーラーさんでも蓄積されたデータを活用できるようになればいいと考えていますね。
ー 今後の展望についてお聞かせください。
安室 自動車業界もとても大きな変革の時代を迎えています。シェアリングエコノミーによって今までにはない方法で車が共有されたり、インターネットとつながったコネクテッドカーがどんどん浸透したりしているわけです。そうするとデータ活用ができる余地はどんどん大きくなると私は考えています。ゆくゆくは自動車の走行データも取り込んでいきたいですね。膨大な量の走行データを蓄積すると、さらにできることが広がります。
ー データによってどのような世界が実現できるとお考えですか?
安室 お客様に最適な提案ができるようになると思うんです。私がディーラーでセールスを担当していた頃、「もっとお客様を知りたい」と考えて、お客様がどのような生活をしているのか、どのようなことに興味があるのかなどをどんどん聞いていました。今でも私はその頃とあまり変わっていません。お客様の目の前にいる気持ちで業務に取り組んでいるんです。データからお客様をもっと理解して、様々なタッチポイントでお客様がよろこんでくれる体験を提供していきたいですね。
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