1999年、「Internet of Things(モノのインターネット)」という言葉が初めて使われた。
パソコンだけではなく「あらゆるモノをインターネットへ接続すること」を意味するこの言葉の歴史は意外に古い。
そして、その略語の「IoT」という単語を耳にする機会が近年爆発的に増えている。
IoTと聞いて「ウェアラブル機器」や「スマート家電」「スマートホーム」「テレマティクス(自動車などの情報通信サービス)」といった一般消費者向けの製品を思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、IoT の大本命である「モノ」を作る製造業では「利用状況を知る」以外にもIoT活用の大きな可能性があるという。そこで、今号では「製造業でのIoTに携わる4名による座談会を開催。さまざまな立場から話を伺った。 [sponsored]
堀内 健后 トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター。2001年、 東京大学大学院工学系研究科修了。現・日本アイ・ビー・エム株式会社などを経て、2013年にトレジャーデータに入社。
高浜 祐二 JBアドバンスト・テクノロジー株式会社 先進技術研究所エグゼクティブ研究員。1997年、日本工業大学卒業後現・JBCC株式会社に入社。2009年より現職。
竹之下 航洋 株式会社アットマークテクノ 企画室室長補佐新事業担当マネージャー。立命館大学大学院卒業後技術系ベンチャーを経て、2009年に入社。高専時代にはロボコン全国大会出場も。
岩木 祐二 株式会社FAナビマーケティング コーディネート部部長マネージングコンサルタント。大阪大学基礎工学部卒業後、現・日本アイ・ビー・エム株式会社などを経て、2013年FAナビに入社
多品種少量生産のライン向き?
― まずは「製造業の販売支援に特化したコンサルタント」として活動されているAナビの岩木さんに伺いたいのですが、製造業界ではIoTは現在どのように捉えら れているのでしょうか?
岩木 製造業と一口に言ってもとても幅広いのですが、その中でも「モノを作る工程」、つまり「生産の現場で稼働率を上げる」ために、IoTやビッグデータの重要性が認識され始めていますね。例えば、「インダストリー4.0」というキーワードがあります。
― 「インダストリー4.0」?
岩木 これはドイツが推進する「第4の産業革命」とでも呼ぶべきプロジェクトです。「IoTも含んだセンサーやネットワークを活用して工場の自動化を進め、さらに効率を高める」という動きですね。そういった世界的背景もあり、「多品種少量生産」に対応すべく「自由度が高い工場のラインにしたい」という思いが業界にはあるんです。
― 自由度の高いライン?
岩木 「多品種少量生産」に対応するためには、ラインを柔軟に活用しなければいけません。「朝の2時から3時はロボットをここに配置してこれをやってね、でも4時からはあっちであれをやってね」みたいなことをコントロールできるラインのことですね。
―個別のニーズに対応するわけですね。
岩木 「お客様が何を求めているか」という データをあらかじめ持っていればそういった制御ができるし、最終的に「これを100個生産するために、ロボット何台を何時間稼働させればよいのか」というところまで分析できるんじゃないか、と言われています。ただ、そういったイメージを思い浮かべている会社は多いのですが、まだ実際に取り組み始めているところは少ない印象ですね。
つながっていない工場の機械
―動き出していない理由はあるのですか?
岩木 実は「モノを作る工程の機械」って、外とつながっていないんです。「工場の中の 機械同士」はつながっているのですが、「工場の中」と「工場の外」はつながっていなくて。ですから、外部にデータを貯めて分析するには障壁があるのだと思います。
―外とつながっていないのはなぜですか?
岩木 これにはメリットとデメリットがあります。メリットは「独立していることで外部からの侵 入をふせぎ、システムや機械の制御の乗っ取りをふせぐこと」ですね。
―デメリットは?
岩木 工場の稼働率を上げるために、どの会社も「機械が壊れるか、壊れないか、壊れるとしたらいつ壊れるか」を知りたいんです。
稼働状況などのデータを上手く集めて分析できれば、事前に壊れる時期を予知して、部品交換などの対応をして稼働率を上げられますが、それができないのがデメリットです。
― 「機械がいつ壊れるのかを知りたい」というニーズはあるんですね。
岩木 ありますね。実は現在の「つながっていない世界」でも同じようなことは行っているんです。「ソフトウェアがハードにどんな指示を出して、ハードが物理的にどう動いた」というデータを取る仕組みがあります。そのデータを元に、事後に「なぜ壊れたのか?」という原因の分析はしているんです。でも、外部と接続し、工場間のデータを統合して、定期的にデータを吸い上げたり、一括で分析を回したりできれば、事前に故障を予知できる可能性は高いと思いますね。
―竹之下さんが勤めるアットマークテクノは、自らがCPUボードを製造するメーカーであり、また、そのCPUボードを多くのメーカーに提供されています。竹之下さんが接する製造業のお客様も「つながらない」という同じ課題を抱えているのでしょうか。
竹之下 そうですね。日本のメーカーの場合、まず国内にマザー工場を置きます。次に拡 大のために海外に工場を展開して、海外工場で生産するという形をとります。でも工場同士はつながっていません。それでも、全体 の管理は日本で集中して行いたい。だから「海外の工場同士をつなげて、在庫を最適化したい」という話もいくつか聞きますね。
IoT導入までの3つのステップ
― アットマークテクノではIoTにも取り組んでいるそうですね。
竹之下 昨年から「Armadillo(アルマジロ)」という、さまざまなデバイスをインターネットへつなぐIoTのゲートウェイ・プラットフォームを提供しています。
― 「Armadillo」では、トレジャーデータと協業していると聞きました。トレジャーデータが「Armadillo」で、どのような役割を担っているか、堀内さんに伺います。
堀内 弊社はビッグデータの収集・保管・分析を行 うクラウド型データマネージメントサービスを提供している会社です。
「Armadillo」では、デバイスから「Armadillo」を通じて送信されるログが「Treasure Data Service(トレジャーデータサービス)」に貯まり、分析基盤となっているんです。
― 「つながっていない」という岩木さんのお話を踏まえると「Armadillo」には相当な需要がありそうですね。
堀内 でも、一筋縄ではなかなかいかなくて。「Armadillo」でアットマークテクノさんと協業するにあたって「生産工程のIoTはやりやすそう」って話をしていたんです。
実際にフタを開けてみると、現場によってデータ転送のプロトコルが違ったり、取ったデータを捨てていたり、そもそもデータを取っていなかったり。「あれ?意外と大変だぞ」って。
竹之下 大変ですね。生産現場でIoTを導入するためには3つの段階があるんです。
-3つの段階?
竹之下 まずは「工場の稼働状況を見える化して、稼働状況を遠隔でモニタリングでき るようにする」という段階です。次に「遠隔で工場や機械の制御ができるようにする」段階。そして、三つ目が、遠隔で制御でき るようになったら、その「データを分析して最適化、自動化する」という段階です。
-どの段階に障壁があるのでしょうか?
竹之下 岩木さんが先ほどおっしゃったように、「工場内でしかつながっていないものを、 外にどうつなぐか」というところにハードルがあります。つまり、第一段階ですね。
―最初の段階で止まってしまっている。
竹之下 次の遠隔制御の段階に行くと、これも岩木さんがおっしゃっていましたが「自分たちの意図しない外部からの侵入に備える」必要があります。外部からのアタックが非常に怖いので今後どう対処していこうかと、議論されているところですね。
堀内 「議論されている」ということは、どうやってその課題を突破しようか考えているところがすでにあるということですか?
竹之下 「遠隔制御をやりたい」とはみなさん思っているんです。
堀内 そうなんですね。
竹之下 ビッグデータを分析するというのは、またその先の三段階目になるんですけれども。「稼働状況を分析して、機械のメンテナンスや、生産量のコントロールを行うために役立てる方向」に進んでいくと思います。
堀内 製造業でその3ステップを踏むとなると、かなりの時間が掛かりそうですが、すでに取り組んでいる会社もあるんですか?
竹之下 非常に早く取り組んでいるところもありまして、お客様の中には今年中に三階目まで導入する方もいます。
― そういった会社は早期導入のアーリーアダプターだと思いますが、この早い時期にIoTを導入するメリットを教えてください。
竹之下 やはり「競争優位性を保てる」という点が一番大きなメリットですね。日本の工場は今までも改善が進んでいるんです。生産コストはすでに十分下がっているんですけれども、さらにもう一歩コストを下げるため に取り組みを始めている印象です。
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