福岡で2日間、イムズホールを埋め尽くすデジマイベント「デジタル神無月」
ITにより情報伝達の物理的距離制約は解消されましたが、知識や情報感度の地域格差は依然として残っています。とりわけデジタルマーケティング領域において知見とソリューション展開の状況は、東京を中心とした一極集中に加速しているのではないでしょうか?
10月24日、25日に福岡イムズホールにて開催されたカンファレンスイベント、「デジタル神無月」(企画運営:デジタル神無月運営事務局)。メディアに頼らず、有志により開催される2年目のイベントを取材しました。
デジタルマーケティング領域の知識格差解消を目指して
「デジタル神無月」とは、マーケティングナレッジの共有を行うカンファレンスとネットワーキングを目的としたイベントです。先進事例の紹介を中心としたデジタルマーケティング戦略の基礎的な理解のために、日本のトッププレイヤーを一堂に集め生の声を伝えることと、実際のサービス選定・導入時に比較検討を行えるように同一領域の競合ベンダーによるパネルディスカッションという内容で、2日間に13のセッションが繰り広げられました。
ITベンチャー企業誘致が進む福岡ですが、デジタルマーケティング領域の情報伝播とその受容度としては他の地方都市と大差ない状況だと主催者はいいます。先進的なアドテクノロジーツールやその運用者に出会う頻度は東京と比べれば格段に少なく、散発的なセミナー開催では点と点を結ぶに至らないという課題感がありました。
「デジタル神無月」では、神無月の名のもとに、その点と点とを一気に集め2日間に凝縮することで知見を総動員し底上げしようという意思が感じられます。
2日間で13のコンテンツ!
プログラムのテーマは2つに分かれ、初日は「仕組化と自動化」、2日目は「思考と発想」。
初日はECモールと自社ECサイトの使い分け、BtoCでのMA(マーケティングオートメーション)とWEB接客ツール、BtoBのMAツールの地方企業導入事例、ダッシュボードの理解とBI(ビジネスインテリジェンス)との違い、人工知能と活用事例。
2日目はデジタルマーケティング企業にとっての福岡での事業活動に対するメリットデメリット、動画クリエイティブ、SNS広告運用と活用事例、インフィード広告の実例と展望、SEOとコンテンツ制作のコツ、コンテンツライティングとリアルタイム推敲、ヒートマップ解析。
それぞれに東京を中心に全国で活躍する名うてのプレイヤーたちと、地元企業で成功事例を作っているプレイヤーが登壇し、ディスカッションを行いました。
コンテンツの内容が幅広く、加えて凝縮されたスケジュールの中で情報過多の状態にありながら総じて会場の雰囲気が良く感じられたのは、主催者側の意図を汲み取って、ここから一歩先の未来を掴み取っていこうという参加者側の意気に依るところがあったと感じます。
参加者にはどの程度受容されていたのか?
では、先進的なデジタルマーケティングテクノロジーは、福岡の参加者にはどの程度受容されたのでしょうか?
各セッションの登壇者はツールベンダーから代理店、制作会社、媒体主と多岐に渡りました。専門的な議論が展開されている時間もちろんもありましたが、単に事例の紹介に終わり消化不良におちいったセッションや、登壇者の粒度が不揃いゆえミスマッチを感じたセッションがいくつかあったのも事実です。多岐に渡る内容をほぼ50分のセッション時間でまとめるのはそもそも無理筋で、深い理解を要するコンテンツでは、登壇者の数や内容を絞るなどの工夫が必要となるでしょう。
実際の参加者の数を見ると、SNS運用やAIといったテーマはほぼ満席という印象でしたが、MA(マーケティングオートメーション)やBI(ビジネスインテリジェンス)といったツールのセッションには空席が目立ちました。逆にこれらのセッションは非常に充実した内容で議論が展開されていました。
とは言えあるMAベンダーの登壇者にセッション後の手応えについて聞いたところ、「九州エリアでの新規の引き合いも増え、導入に至った案件も4件ある」とのこと。認知拡大とツール導入に関しては、一定の成果や手応えが生まれていることは事実です。
ネットワーキングは確かに重要だが
対象的だったのが、両日のプログラム冒頭で行われた特別セッション1と2。
「デジタル神無月の歩き方」と題して横のつながりを強調、促したセッション1と、確かに福岡では横のつながりが強いけれども、そこに満足してしまったり、小さいコミュニティで目線が低くなってはいけないというセッション2。
その横のつながりをやけに感じてしまう、ある種の内輪感は確かに地方特有の居心地の悪さ、閉塞感を生んでいます(東京で開催されるテック系イベントで同じような印象を受けることも当然あるということを付記します)。
しかしそういった横のつながり、小さなコミュニティの連携があってこそ、この規模のイベントが開催されているのも事実。他の都市では、この規模感でのこういったイベントを開催するのは現状難しいという声も聞きました。
福岡でブランド価値を上げ事例を作り、東京へ、アジアへ出よう
特別セッション2で倉橋美佳氏(株式会社ペンシル)がこのように語りました。
自分の武器は何なのか。武器を知り、磨き、事例を作り、どうやって福岡の外に出るか。福岡でブランド価値を高めていくことが重要だ、と。東京ではデジタルマーケティングのイベントが頻繁に行われている、今は話を聞きに行く、もしくは話をしてもらいに来てもらう立場でも、誰でもそこで話す立場になれるということ。そして東京を獲りに行く。
植山浩介氏(SATORI株式会社)も、セッション中「MAを活用して東京の市場、お客様をどう獲るか」ということを繰り返します。物理的距離が近いアジアの商圏でも良いわけです。コンフォートゾーンを抜け出し、如何にチャレンジするか。
この会をきっかけにデジタルマーケティングのトッププレイヤーが排出されていくこと。話を聞いて終わり、事例を共有されて終わり、ネットワーキングをして終わり、ではなくそこからいかに実ビジネスの結果成果に結びつけていくかが、「デジタル神無月」の試金石となるでしょう。
九州、福岡はもともとマーケティングが強い土地柄です。来年の同イベントでは、「デジタル神無月2017」から得たヒントやツールを武器とした福岡発の先進デジタルマーケティング事例が増えていくことが期待されます。