大企業が積極的に関与していくフランスのイノベーション
「Viva Technology」では、出展企業のイノベーション部門責任者が各ブースに常駐しているので、新規にスタートアップとの協働可否を判断する決裁者に対して、参加者が直接アプローチすることができます。私自身、東京にいる頃は出展側としてBtoB展示会に度々参加していましたが、日本の展示会では現場にはエグゼクティブレベルのポジションは不在で、現場スタッフのみで対応するのが通例でしたので、直接その場で今後のビジネス展開にも繋がる出会いが得られるこのスタイルには斬新さを感じました。
スポンサー側の本気度を感じた例をふたつご紹介します。
ひとつめは、製薬会社サノフィのブース。ここではスタートアップに対して非常にイノベーティブな仕組みが用意されていました。サノフィのイノベーション担当チームに対して、提案意志のあるスタートアップ側が自社のサービス紹介や、どのようなコラボがしたいかというメッセージビデオをその場で録画するプリクラ機のようなマシーンがブース内に用意されていたのです。大企業側がただスタートアップに対し受け身姿勢で提案を待っているだけでなくて、能動的にアイデアを出しまさにイノベーティブな志を持ってこのイベントに協賛している姿勢が伝わってきました。
もうひとつの例として、小売チェーン大手、カルフールのブースで行われたピッチコンテスト。ここではイノベーション担当者に話しかけてみたところ「サービス紹介したいんだったら最終日にピッチコンテストがあるからそこでプレゼンする?資料はデータで送ってくれればいいから!」と言われ、予期せぬプレゼン機会を得られたのでした。かなりフレキシブルな担当者の対応に驚きつつ、プレゼンに挑んだ堀内氏。ピッチコンテストは凝った会場構成かつライブ感満載の進行で、優勝者には賞金とシャンパンが手渡されました。個人的には普段の買い物はモノプリ(競合スーパーチェーン店)派なのですが、カルフールに対して俄然好感度が増した1日でした。最終日でしたので、来場したファミリー層にとっても、身近なスーパーのカルフールが実はこんなにもデジタルイノベーションに注力しているんだという新しいブランドイメージが湧いた出来事だったと思います。
カルフールはじめLa Poste(フランス郵政公社)、SNCF(フランス国鉄)、RATP(パリ交通公団)、ルイヴィトングループといった、一見テクノロジーと無縁そうな、しかしフランス国民にとってはおなじみの企業が、Google、Facebookなどの名だたるIT企業と同じスペース規模で軒を並べていたことに、私はかなり驚きました。日本でいうと、例えばイオンやセブンイレブン、日本郵政、JRがGoogle、Facebookと同じ幕張メッセのテクノロジーイベントに出展しているイメージでしょうか・・・かつてはIT企業の独壇場だったイノベーション、テクノロジーといった領域に、今や全く異なる事業領域の企業、それもアナログなブランドイメージを背負った老舗企業たちが、スタートアップと手を組むことによって次世代のビジネスを切り開かんとする状況を目の当たりにしました。
マクロン大統領も来場、官民をあげたスタートアップ支援
こういった背景には、民間の動きだけでなく、フランスが国を挙げてスタートアップを支援している現状があります。開催2日目には、エマニュエル・マクロン大統領が会場を訪れ、フランスが世界のイノベーターを歓迎し、企業のデジタル革新を益々推進していくことを力強く宣言しました。
マクロン氏は、大統領就任前、フランス政府の経済・産業・デジタル大臣だった時代に、フランスのテクノロジー産業を海外に発信する動きを「La French Tech」と銘打ち、起業エコシステム拡大を自ら推進していた経緯があるので、大統領となってこのイベントに今年帰ってこれたのは感慨深かったようです。フランスでは昨年、有能な技術者やスタートアップ起業関係者を優遇するビザが発行され、今夏には世界最大規模のスタートアップ向けシェアオフィス施設、「Station F(スタシオン・エフ)」がパリ市内に開業されました。マクロン政権が今後、さらに国家政策レベルでイノベーティブな起業家たちの発展を下支えする役割を担っていくことを期待しています。
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