ショッピングセンター「PARCO」を全国に18店舗展開する株式会社パルコ。同社では、全館での無料Wi-Fiの提供、ロボットによる接客、「iBeacon」を利用した導線分析の検証などテクノロジーの活用を積極的に推進している。
一連のデジタル事業の取り組みの中でも核になっているのが、スマートフォン向けアプリ「POCKET PARCO」の運営だ。2014年10月にリリースされた同アプリは、全国のPARCO館内に出店する約3000のショップからのオススメ商品の情報を閲覧・クリップできたり、買い物や来館に応じてコインを獲得できたり、お得なクーポンが届いたりするするもの。リリース以来、パルコではこのアプリを「個客」の行動や属性を知るための重要なツールと位置付けている。
さらに、この9月下旬にはトレジャーデータ社が提供するプライベートDMPソリューション「TREASURE DMP」の導入を発表した。その意図はどこにあるのだろうか。パルコの執行役である林直孝氏に話を伺った。 [sponsored]
林 直孝 株式会社パルコ 執行役。WEB/マーケティング部、メディアコミュニケーション部担当。1991年、新卒でパルコへ入社。イベント、広報など様々な担当を経て、2000年よりITに携わる。

「スマート」ではないITキャリアのスタート
ー まず、林さんの足跡を教えて下さい。
林 大学卒業後、新卒でパルコに入社しました。1991年のことです。1年目は渋谷PARCOに配属されました。営業課で販促やプロモーションを担う部隊でしたね。私はそこでイベントの担当でした。「ザ・ローリング・ストーンズ展」や「ザ・ブルーハーツ展」などにも携わりまして、2年をその部署で過ごしました。その後は、調布PARCOの総務や本社の広報、千葉PARCOの営業を担当しました。
ー キャリアのスタートはITとは関連がない部署だったのですね。
林 そうですね。千葉PARCOでの営業の後、再び本社に戻っていたのですが、2000年にパルコから分社化して株式会社パルコ・シティが設立されました。パルコ・シティは、「パルコのウェブ活用で培った仕組みやノウハウを外販する組織」として生まれ、当時はパルコからもウェブに携わりたい人を社内公募していました。その公募へ応募してパルコ・シティへ移動となり、初めてウェブの仕事をすることになりました。
ー なぜ応募されたのですか?
林 2000年当時、私は本社の新規企画部で「PARCOの新しいサービス」を企画・提案する取り組みを行っていました。この頃は、ちょうど様々なウェブサービスが一気に広まっていた時期で、これから自分が関わっていく領域にもウェブが欠かせないと思ったんです。
ー パルコ・シティではどのようなことを担当されていたのですか?
林 「ウェブの会社」というと、どこか知的でカッコいいイメージがありますよね。しかし、私は本当に泥臭い取り組みを行っていました。当時は、PARCOの会員向けにメルマガを運営していたのですが、そのメルマガに「広告を入れましょう」と営業したりしていましたね。
ー 広告枠の営業もされていたのですか?
林 営業のメニューも自分で作ったりしていましたよ。今で言うところの、一社買切りの記事広告をメニューとして考えて、それを自分で売りに行ったりもしています。自分でメルマガの原稿を書いて、配信の設定をして、配信ボタンを押すところまでやっていました。
ー 本当に最初から最後まで全てに携わっていたのですね。
林 畑を耕し、種を蒔き、水をあげ、雑草を抜き、収穫まで自分でするような感じでしたね(笑)。全てがこのような感じで、3年半に渡って既存の事業ではできない体験をしました。その後は、パルコに戻って店舗の営業をしたのですが、2009年に再びパルコ・シティへ出向します。
ー 2回目の出向ではどのようなミッションがあったのですか?
林 パルコ・シティでは2007年からファッションを中心としたECモールを運営していたのですが、2009年から3年間その責任者を務めました。この3年間の経験は、今の仕事の原型になっていると思いますね。
PV数150%を達成したウェブサイトリニューアル
— 現在のように全社的にデジタル戦略を活用するようになったのはいつ頃ですか?
林 今から4年くらい前、2012年頃からですね。ECモールの運営の後、私はパルコの経営企画室へ移りました。当時、「オムニチャネルの概念」が入ってきたこともありまして、パルコの中で「どのようにウェブを活かしていくのか」を考えるタイミングを迎えていました。そこで、全社横断で若手を中心としたチームを作り、何をするべきか検討を進めて行ったんです。その翌年、
2013年に検討した内容を実行するために6人で「WEBコミュニケーション部」という部門を立ち上げました。
ー WEBコミュニケーション部で最初に取り組んだことは?
林 まずは、PARCOからの情報発信の方法を整える試みを行いました。2012年の段階で、「PARCOのウェブを閲覧するデバイス」の7割がスマートフォンになっていたんです。ところが、まだ当時は、ガラケーサイトをスマートフォンに見せるようなものでした。さらに、情報の発信も各テナントさんから集めたものをPARCOの人間が編集して発信するスタイルだったのです。
ー テナントから直接情報が発信されていたわけではないのですね。
林 そうなんです。ただ、一部の店舗ではショップブログを既に導入していました。やっぱり、実際に売り場に立っているテナントのスタッフさんが一番情報を持っていますよね。そういったスタッフさんがお客様に直接語りかけるショップブログを運営していて、実際にそのショップではブログを介した効果が出ていたんです。
ー どのような効果があったのですか?
林 遠方のお客様がわざわざ「あなたから買いたいんです」とコミュニケーションを取ってくださり、銀行振込や現金書留を使ってそのショップで購入していたんです。それも月に複数件そういったことがありました。ですから、そういったニーズを拾えるようにPARCO全店のウェブサイトをリニューアルしたわけですね。具体的には、先に述べたように「スマートフォンに最適化」し、「PARCOが編集せずテナントさんから直接ブログで情報を発信してもらえるプラットフォーム」としました。ただし、ブログをメインにするだけではカバーできない問題もありました。
ー どういった問題ですか?
林 ブログは「ひとつの商品を細かく紹介し、深く知ってもらう」のには向いています。しかし、「様々な商品を俯瞰して見てもらう」ことは難しいという性質があります。そこで、ウェブサイトのリニューアルと並行しながら「PARCO SHOW WINDOW」というサービスを立ち上げました。
ー どのようなサービスですか?
林 「PARCO SHOW WINDOW」は、テナントさんが自社で運営しているECサイトをクロールして情報を集めてきまして、複数のブランドの商品を並べて表示するというものです。各商品には「テナントさんが運営するECサイトへのリンク」を貼っています。ユーザーが商品に興味を持ったら、「PARCO SHOW WINDOW」の外に出て、テナントさんのサイトで情報を入手したり、購買を行う仕組みというわけですね。
ー 「PARCO SHOW WINDOW」へ訪れたユーザーを、テナントのECサイトへ送客してしまっているということですか?
林 そうですね。当時、ショッピングセンターが運営するサイトでは、そのようなことは行われていませんでした。「お客様に実際に店頭に来ていただく機会が減る」と考えられていたからです。しかし、私たちは「ウェブで多くの商品をよく知ってもらうこと」が、最終的には「実際に店頭で見て、手で触れて、納得して購入する」という行動を促進する効果が高いだろうと考えました。
ー 「あえて」の選択だったのですね。
林 さらに、「PARCO SHOW WINDOW」から送客したお客様がテナントさんのECサイトで購買した際に、アフィリエイトとして私たちにも収入が入る仕組みとしたのです。「PARCO SHOW WINDOW」を運営することにより、オムニチャネルの視点で考えればユーザーは商品をウェブでも購買できるようになりました。しかし、テナントさんにはひとつ問題がありました。
ー 自社のECサイトへの送客が行われるのに問題があるのですか?
林 ブログから情報発信してくれるのは、実際に現場に立って接客するショップのスタッフさんです。しかし、「PARCO SHOW WINDOW」経由で売上があっても、そのスタッフさんの成績にはなりません。そこでもうひとつ「カエルパルコ」というサービスを立ち上げました。
ー 「カエルパルコ」はどのようなサービスですか?
林 「テナントさんがブログで紹介した商品」を、「ウェブ上でそのショップの在庫から直接購入できる」というサービスです。この仕組みですと、「ショップのスタッフさんがブログで発信すること」が店頭の来店促進になり、オンラインで購入があった場合にはそのショップに注文が通ります。売上はブログを書いたスタッフさんがいるショップにカウントされるので、そのスタッフさんの成績になるわけです。こういったプラットフォームを順番に作って提供することが、WEBコミュニケーション部の最初のミッションでした。
ー 一連の取り組みの効果は?
林 全店舗のウェブをリニューアルしブログが整った時点で、対前年比1.5倍のPVが獲得できるようになりました。当時のブログの月間PV数は約250万です。1ヶ月間に閲覧されるコンテンツは約1万件のブログでしたから、「ブログ1記事に平均250PV」あるわけです。ユニークユーザー数ではないのですが、「1記事で来店前の250人に接客ができる」ことを意味します。「何も情報を持たずに来店されたお客様」と「ブログで情報を見て購買の一歩手前の心理状態で来店されるお客様」では、コンバージョン率が明らかに違うのでとても効果的です。
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